哀 蛾(23)
「あららー、そんなに飲んでだいじょうぶ?」バーボンのボトルを抱え込むように飲んでいた私の背後から懐かしい声が顔をのぞかせた。
「大丈夫ってのは昔は強くてたくましい男のことだったんだけどなあ・・・」
「相変わらずなんだからぁー、先生。」屈託のない笑顔が、酔いの回った目にはまぶしすぎた。
彼女は私が初めて赴任した田舎の高校の最初の卒業生のひとりだった。
「元気そうじゃないか、ユッコ。」。
子どもっぽい女生徒たちの中にあって、彼女は特に目立った存在だった。
地元のスーパーチェーンのオーナーの一人娘ということもあり、することなすことが派手で目に付いた。
背が高くスタイルも高校生離れしていた。
当然のことながらいつも男子生徒の好奇な目に取り囲まれていた。
「元気すぎて、太っちゃった。」みぞおちの辺りを手のひらで軽くなでながら、私の隣に丸い腰を下ろした。
あれから十年。彼女も二十代後半になる。
「私もそれ飲ませて?」大き目の氷を指でつまむとグラスの中に無造作に投げ入れ、濡れた指先を軽く口に含み、艶のある瞳を私に向けた。
「そんな目をすると客が誤解するだろう?」私は視線を外してグラスにバーボンを注いだ。
「これがし・ご・と・・・」氷の浮かぶグラスを鼻先で回しながらそう呟いた。
琥珀色に波打つ液体の底に彼女は何を見ているのだろう。
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