哀 蛾(4)
仕事に疲れ、カウンターの隅に腰を下ろすと、私の前にはいつも聡子がいた。
ともすると無口になりがちな私を咎めることなく、ただ微笑んでくれるだけの彼女の存在がありがたかった。
私たちは週末毎に映画を見、食事をし、少しばかり酒を飲んだ。
一年目の夏は夢のように過ぎていった。
「ハリソン・フォードって素敵よねー」映画の帰り道、聡子は星空を見つめながらそう呟いた。
それは今見終わった映画の感想というより、何かを懐かしんでいるように聞こえた。
澄みきった秋の夜空に北斗七星がくっきりと見えた。
今彼女は何を思っているのだろうか?
「少し歩こう。」私は聡子の肩に腕を回すと歩き始めた。
「特別な想い出でもあるの?」私は目を合わさずにそう尋ねた。
「何に?」聡子はふっと足を止め私を見上げた。
「そんな目をしてたから・・・」
「そんな目って?」
「懐かしそうな目をしてたから・・・」
「・・・・・」聡子は何も言わず私の胸に顔を埋めた。
秋風が彼女の髪の間を吹き抜けて行った。
| 固定リンク
「小説」カテゴリの記事
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1019959/20760098
この記事へのトラックバック一覧です: 哀 蛾(4):






コメント